2017年3月14日火曜日

Chapter26:フェアリー変動

カイリュー先生は、首から垂らしてるバッグに手を突っ込むと
小さなポシェットをいくつも取り出した

「キミたち用のポシェットだよ。
学園は広いからねー。お城やら他の組の宿舎やら、あちこち動き回ると思うし、
教科書やら何やらはそれに入れて持ち運ぶといいさ」

先生はそう言い、俺たち全員に一個ずつ配った
俺はさっそく首にかけてみた

軽いし、色んなもんが入りそうで便利だ
こいつは気が利いてるな。学園生活の相棒として使わせてもらうとするぜ

「って、本当は昨夜の内に渡す予定だったんですけどね!」

後ろで誰かが言った
振り向くと、センパイのリーフィアさんが怒った顔してやってきた

「毎度毎度いい加減にしてくださいよ
先生の後始末をさせられるのは、私なんですからね!」

リーフィアさんはビシッと指さして言った
先生は「こりゃまいった」って感じで、ゴキゲンナナメなリーフィアさんに申し開きをしてやがる

二人のやり取りを見て、俺は「またかよ。」と事情を察した

あの姉ちゃん、今朝も「学園ポータル」の件をせっせと伝え回ってたらしいし
そのせいか明らかに機嫌悪そうだぜ……

このリーフィアって姉ちゃんは「空組」のセンパイの中でも相当「デキる」らしくて
先生の補佐役も兼ねてる特別な生徒だそうだ。
たぶんいっつもこの調子で、物忘れが激しいカイリュー先生の後始末に追われてるんだろうな。

ご苦労お察しするぜ……

がっつり文句を言った後、リーフィアさんは不機嫌そうにしながら
カイリュー先生の隣にちょこんと座った

「……さて。ちょっとトラブルがあって待たせちゃったけど
そろそろ授業を始めるからね。」

先生は俺たちの方を向いて言った

いよいよか……
一体この「おとぼけドラゴン」がどんな授業をするのか、実に興味があるぜ。

「みんなは今回、初めての授業だからねー。
とりあえずは「入門編」って事で、あんまり難しいことはさせないように
シルヴァディクンからも言付かってるから安心しておくれ。」

カイリュー先生はそう言い、穏やかに笑った

この先生は……
親しみやすいっていうか、場を和ます力があるような気がするな
心なしかこっちも緊張がほぐれてくる。

「やる事はいたって簡単さ。
みんなそれぞれ持ってる「ワザ」を見せておくれ」

は?

俺は耳を疑った

冗談やめてくれよ……
俺たち、まだ入学したてのペーペーなんだぜ
「ワザ」はこれから先生がばっちり教えてくれるんじゃないのかよ?

思わぬ展開で、みんなもさすがに動揺してるようだった。

「大丈夫!キミたちは
もう「ワザ」を使えるようになっているはずだから。」

先生は自信満々に言った

「ポケモンというのは本来、生まれた時から
一つは「ワザ」を持っているものさ。誰に教えてもらわなくてもね」

俺は驚いて、ピィとププリンと顔を見合わせた

俺たちがすでに「ワザ」を持ってるだと……
それは本当なのか?

「いいかい?「ワザ」を使えるようになるには
身体を巡っている生命エネルギー、ハドウが「正しい状態」になっている必要があるんだ
そうでなければ、いくら特訓しても使えるようにならないのさ。絶対にね」

カイリュー先生は俺の胸あたりを指さした。

「だけど、キミたちのハドウはすでに「正しい状態」にあるんだよ
そのバッジの力によってね。」

俺の胸についてる「葉っぱ」の形したクラスバッジが
一瞬キラリと光ったような気がした。

カイリュー先生が言うには、
このバッジは「ハドウ石」っていう特別な鉱石でできてるらしくて
これを身に着けているだけで、ハドウが「正しい状態」に目覚めるんだってよ。

まさか……
クラスバッジにそんな力があったとは驚きだぜ

「試しに「ワザ」を使ってみてごらんよ
そうだね、そこの長い耳したウサギのキミ!ホルビークン」

突然指名されてホルビーは「え!?おいら?」ととまどった

「ホルビークンは、その長くて器用な耳が強そうだね
その耳を使ってボクを攻撃してごらん。」

先生にそう言われて
ホルビーはのしのしと俺たちの前に出た

表情は見えないが、その後ろ姿から緊張が伝わってくる

「大丈夫だよ。この「ツリー」に漂う数々のVウェーブが
キミの味方をしてくれるはずさ。」

「勇気を出して!」と先生は後押しした

ホルビーは意を決したように走り出し
その長い耳で何度も何度も、すさまじい勢いで先生の身体を叩きつけた。

「んは~~~っ!いいねぇ!
たまらない攻撃だぁ~」

カイリュー先生は身を撃たれながら、ズザァーッと後ろへ押されていった
その様子を、俺たちは呆気にとられながら見ていた。

す、すげぇ……
あのでかい図体をビンタの力で押してやがる!

「よくやった~、ホルビークン
それは「おうふくビンタ」というワザだよぉ~」

フラフラと目を回しながら先生が言った

その足もとを見ると、草地が擦りむけて二本の線ができている
ホルビーのビンタ攻撃に押された時、先生のつま先がこすれてできた「跡」だ。

当のホルビーは汗びっしょりで、ゼェゼェ息を切らして立っていた
かなり力を使ったんだろうと分かる。

マジかよ……
「ワザ」を使えただと……

「まぁこの通り、キミたちはもう
すぐにでも「ワザ」を使えるって事さ。」

先生は気を取り直したように、俺たち全員に向かって言った

ホルビーが使った「おうふくビンタ」を見たせいで
みんな衝撃を受けてるようだった。

もうすでに「ワザ」を使える……
自分の手を見つめながら、俺は興奮に打ち震えた

「今、ホルビークンが使った「おうふくビンタ」はノーマルタイプのワザだね。
ポケモンには17つのタイプがあって……」

先生が言いかけると「18ですよ先生!フェアリータイプ忘れてます!」と
横のリーフィアさんが訂正した

「あ。そうだったね
いやぁ~、いつも忘れちゃうんだよねボク。反省反省~」

先生は腕を組んで、難しそうな顔して「うんうん!」と自分に言い聞かせた

「まあ……忘れちゃうのも何となく分かりますけど。
少し前までポケモンのタイプは、全部で17つというのが常識でしたし」

リーフィアさんがこっちを見て言った

「みんなも知ってるよね?フェアリータイプ
3年前の「フェアリー変動」がきっかけで、突然定義された新しいタイプよ。」

フェアリー変動??
なんだそりゃ、聞いたこともねぇぞ

俺がそう口走ると、その場にいる全員が「え!?」っていう表情を浮かべた
ただしピィとププリンを除いて。

「きみ、知らないの?フェアリー変動だよ!
3年前大騒ぎだったでしょ」

ホルビーが焦りながら説明してくれた

「3年前、世界中のVウェーブに異常が発生して
それまでノーマルタイプや水タイプだった一部のポケモンに
新しく「フェアリー」がつくっていう、ナゾの事件が起こったんだってさ。」

ホルビーが言うには、その事件がきっかけで
それまでは「あまり知られてなかった」フェアリータイプが急速に認知されたそうだ。

「でもね、その時に新しくフェアリータイプがついたポケモンは
今もはっきり特定できてないらしいんだ。
何しろ本人でさえも、自分のタイプが変わった事に気付かない場合も結構あるらしいから。」

う。何かこえー話だな……
いつのまにか自分や知り合いのタイプが変わってるかもって事かよ

それにしても、ずいぶん詳しいんだなホルビー

「何言ってるのよ!フェアリー変動を知らないなんて、あなた達ぐらいよ?
世界中で大ニュースになったというのに……」

チコリータが心底驚いたように言った
ホルビーもハネッコも、他の奴らもみんな目を丸くして俺とピィとププリンを見た

な、何だよお前ら……
まるで「珍獣」でも見るかのような目しやがって

マジで知らなかったんだから仕方ないだろ!

大体、3年前というと俺はロクデナシの親に見捨てられて
絶望のどん底だった時期だし。とてもニュースどころじゃなかったからな

ていうか前から薄々思ってたが……
「ポケットタウン」って、もしかしなくても相当なド田舎じゃねぇか?

同じ「ポケッ島」に住んでるはずのハネッコでさえ
フェアリー変動とかいう事件を知ってるって相当ヤバイだろこりゃ……

く、何なんだ。この情報格差は……!


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